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東京地方裁判所 昭和29年(ワ)10221号 判決

荒川信用金庫

事実

原告荒川信用金庫は、昭和二十九年一月三日訴外須藤茂重郎に対し金二十万円を利息日歩三銭八厘、期限後は日歩金七銭の約定で貸与し、被告増子邦衛はその際右債務につき連帯保証を約した。よつて原告は被告に対し右貸金及びこれに対する損害金の支払を求めると述べたが、これに対し被告は、本件消費貸借契約書中の被告の署名部分は、訴外須藤茂重郎が被告の氏名を記入の上、右須藤が保管していた被告の印鑑を冒捺したものであるから、被告に本件債務の履行義務はないと主張した。

理由

訴外須藤茂重郎が原告荒川信用金庫より金二十万円をその主張の約定で借り受けたことは当事者間に争いがない。

本件消費貸借契約書によれば、須藤の右消費貸借上の債務につき連帯保証人として被告の署名捺印があり、その印影が被告の印章により顕出されたものであることは被告の争わないところであり、また保証人承諾問合書には原告より本件保証の事実を照会したのに対し被告が承諾した旨の署名捺印があり、その印は届出印鑑と同一であることが認められるけれども、証拠を綜合すれば、須藤は被告の妻増子ハツ子より被告のために印鑑届をするよう依頼されて被告の印鑑を預つたのを奇貨とし被告の承諾を得ることなく、前記契約書及び保証人承諾問合書に被告の氏名を記載した上その名下に該印鑑を冒捺したことが明らかであるから、右契約書並びに保証人承諾書によつては被告の連帯保証の事実を認定する資料となすに足りない。また原告信用金庫の貸付係水野潤二郎の証言によれば、同人は須藤から本件借入の申込を受けたので、昭和二十八年五月頃被告に連帯保証をする意思があるかどうか及び連帯保証人としての適格性を調査する目的で被告宅に赴き、増子ハツ子に面接したのであるが、その際須藤のために連帯保証をする意思があるかどうかを特にことさら確めることをせず、婉曲にこれを推知する方法をとり被告の資産及び信用状態を打診するための発問に対し、ハツ子が快く応答したことから、被告に連帯保証の意思があるものと判断したことが認められる。ところが、たまたま被告はその頃須藤名義をかり、原告に五十万円の定期積立金をしていたが、これを解約して払戻を受ける手続をとるよう須藤に依頼してあつたところから、ハツ子はこの手続のために水野が来訪したものと誤解して同人の質問に答えたに過ぎないのであつて、被告としては全然連帯保証をする意思がなかつたことが認められる。

よつて被告が連帯保証をしたことを前提とする原告の本訴請求は失当であるとしてこれを棄却した。

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